もくじ
はじめに
従来のPLC(Programmable Logic Controller、プログラマブルロジックコントローラ)は、産業用の専用ハードウェア上で動作する制御装置として広く利用されてきました。
工場の自動化や生産ラインの制御に欠かせない存在ですが、ハードウェア依存や拡張性の制限、ITシステムとの連携の難しさなどの課題もあります。
こうした背景から、PCや産業用コンピュータ上で動作するソフトウェアPLCが注目されています。
ソフトウェアPLCは、従来のハードPLCの制御ロジックをソフトウェアとして実装し、柔軟かつ拡張性の高い制御システムを実現します。
特に、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で、その重要性はますます高まっています。
ソフトウェアPLCの基本概念

ソフトウェアPLCとは、従来のPLCハードウェアを使わずに、PCや産業用PC、リアルタイムOS上で動作する制御ソフトウェアのことです。
制御プログラムはIEC 61131-3規格に準拠したラダー図(LD)やファンクションブロック図(FBD)、構造化テキスト(ST)などで作成され、PCのCPUで実行されます。
ハードウェアPLCは専用のCPUユニットやI/Oユニットを持ちますが、ソフトウェアPLCは一般的なPCのCPUとOS上で制御ロジックを動かし、I/O信号は通信プロトコルやフィールドバスを介して接続されます。
PLCopenとソフトウェアPLC
PLCopenは、IEC 61131-3に基づく制御プログラムの標準化と普及を推進する国際的な団体です。
PLCopenは、ソフトウェアPLCを積極的に推奨しています。
なぜなら、ソフトウェアPLCはハードウェアに依存しない柔軟な制御環境を実現し、ITシステムとの連携を容易にするからです。
PLCopenの公式声明では、
「PLCソフトウェアコンセプトはパワフルな産業用コンピュータ上で動作するソフトウェアのみとして実装可能であり、このソフトウェアPLCコンセプトはPLCopenによって積極的に推進されている」
と明記されています。
つまり、PLCopenはソフトウェアPLCを未来の制御システムの基盤として位置づけ、標準化された開発環境として広く活用することを目指しているのです。
PLCopenについては、以下の記事で紹介していますので、確認してください。

ソフトウェアPLCの構成要素
ソフトウェアPLCの主な構成要素は以下の通りです。
- ソフトウェアPLCエンジン
制御ロジックを実行するソフトウェア部分。IEC 61131-3準拠の言語でプログラムが作成される。 - I/Oインタフェース
フィールドバス(EtherCAT、Modbus、PROFINETなど)やデジタル/アナログ通信を通じて、外部機器やセンサー、アクチュエータと接続される。 - 開発環境
プログラムの設計・編集・デバッグを行うソフトウェアツール。CODESYSやBeckhoff TwinCATなどが代表例。
ソフトウェアPLCのメリット・デメリット
メリット
- 柔軟性と拡張性の高さ
ハードウェアに依存しないため、PCの性能向上や仮想化技術を活用してシステム拡張が容易。 - ITシステムとの統合が容易
クラウド連携やデータベース接続など、IT技術と組み合わせた高度な制御が可能。 - コスト削減
専用ハードウェアが不要な場合、ハードコストや保守コストを抑えられる。 - マルチプラットフォーム対応
WindowsやLinux、リアルタイムOS、仮想環境など、多様な環境で動作可能。
デメリット
- リアルタイム性の課題
一般的なOS上で動作する場合、ハードPLCに比べてリアルタイム制御が難しい場合がある。 - PCハードウェアの信頼性依存
一般的なPCは産業用PLCに比べ信頼性が低い場合があり、環境耐性に課題がある。 - 保守やトラブルシューティングの難しさ
ソフトウェアとハードウェアの複合的な問題発生時に、原因特定が複雑になる可能性がある。
主なソフトウェアPLC製品例
代表的なソフトウェアPLC製品には以下があります。
- CODESYS
IEC 61131-3準拠の開発環境を持ち、多数のハードウェアに対応。 - Beckhoff TwinCAT
WindowsベースのソフトウェアPLC。PC上でリアルタイム制御を実現。 - ISaGRAF
マルチプラットフォーム対応のソフトPLCソリューション。 - OpenPLC
オープンソースのソフトウェアPLCプロジェクト。
これらは、産業用PCや汎用PCに導入され、幅広い分野で利用されています。
ソフトウェアPLCの活用事例
ソフトウェアPLCは以下のような場面で活用されています。
- スマート工場やIoT連携
製造データをリアルタイムで収集・分析し、クラウドやビッグデータと連携。 - 研究開発・小規模制御
柔軟な開発環境を活かして試作機や小規模設備の制御に利用。 - クラウド連携やデータ活用
クラウド上のシステムと接続して遠隔監視や予知保全に活用。
今後の展望と課題
今後はITとOT(Operational Technology)の融合がさらに進み、ソフトウェアPLCの役割は増大すると期待されています。
一方で、リアルタイム性の強化やサイバーセキュリティの向上、産業用PCの信頼性向上など、克服すべき課題も多く残っています。
PLCopenをはじめとした国際標準の推進と製品開発の進展により、ソフトウェアPLCはますます普及し、スマートファクトリーの基盤技術として欠かせない存在になるでしょう。
まとめ
ソフトウェアPLCは、従来のハードウェアPLCの制約を超え、柔軟かつ拡張性の高い制御環境を実現する次世代の技術です。
PLCopenが標準化と普及を積極的に推進しており、今後の製造業のDXやスマートファクトリー化に欠かせない要素となります。
IT技術と融合した高度な制御システムを構築したいエンジニアにとって、ソフトウェアPLCは注目すべきキーワードです。