もくじ
はじめに
産業用制御システムにおけるプログラミング標準「IEC 61131-3」は、制御エンジニアにとって欠かせない技術です。
しかし、この標準が現場で実際に活用されるためには、具体的な実装ガイドラインや相互運用の仕組みが必要です。
そこで登場するのが「PLCopen(ピーエルシーオープン)」という国際団体です。
本記事では、PLCopenとは何か、なぜ生まれ、どんな活動を行っているのかを紹介します。
なお、IEC 61131-3については以下の記事で紹介していますので参照してください。

PLCopenとは?

PLCopenは、IEC 61131-3の普及と実用化を推進するために設立された国際非営利団体です。
- 設立年:1992年
- 本部所在地:オランダ
- 主な目的:
- PLCプログラミングの国際標準化の推進
- メーカー間の互換性向上
- 開発効率の改善と保守性の強化
🔗 公式サイト:
https://www.plcopen.org
なぜPLCopenが生まれたのか?
制御業界では、かつてメーカーごとに独自のPLC言語やツールが乱立していました。
その結果、下記のような課題が生じていました:
- ベンダー変更時にプログラムを一から作り直す必要がある
- 教育やエンジニア育成の学習コストが高い
- 大規模設備での開発・保守の効率が悪い
これらの問題を解決するために登場したのが「IEC 61131-3」ですが、実務で使える形に落とし込むための組織が求められていました。
そこで設立されたのがPLCopenです。
PLCopenの主な活動
PLCopenは、IEC 61131-3に基づいた実践的な仕様やルールを策定・普及しています。主な活動領域は以下のとおりです。
ファンクションブロック(FB)の標準化
PLCでよく使う処理(例:モーターの起動、移動、停止など)をベンダー共通で使えるFBとして規格化しています。
- Motion Control FB
例:MC_MoveAbsolute, MC_Home など
→ 各社サーボでも動作仕様が共通化される - Safety FB
例:非常停止、二手操作、セーフティドアの制御FB
→ 安全制御も構造化・標準化が進む
🔗 参考資料:
PLCopen Motion Control
PLCopen Safety
プログラム交換フォーマット(PLCopen XML)
IEC 61131-3で書かれたPLCプログラムを、XML形式でツール間で交換可能にする仕様を定義しました。

これが後に国際標準であるIEC 61131-10として発展しました。
IEC 61131-10の特徴は以下のとおり。
- メーカー間でのプログラムデータ共有が可能に
- グラフィックレイアウト(ラダー図など)も保存できる
🔗 解説ページ:
https://www.plcopen.org/technical-activities/xml-exchange
OPC UA対応仕様の策定
産業用IoTやIT-OT連携の基盤であるOPC UAと、PLCプログラム構造(変数・FB)との情報モデルマッピング仕様を提供しています。
この仕様により、次のような利点があります。
- PLCの状態をIT側から容易に参照・制御できる
- 上位システムとのスムーズな連携が可能になる
🔗 OPC UA連携に関する詳細:
https://plcopen.org/news/plcopen-tc4-%E2%80%93-opc-ua
コーディングガイドラインの提供
IEC 61131-3でプログラムを書く際の命名ルールや構造設計の推奨事項も提示しています。
これにより、大規模プロジェクトでもコード品質を統一しやすくなります。
🔗 ダウンロードページ(日本語もあり):
https://plcopen-japan.jp
PLCopenがもたらすメリット
項目 | 内容 |
ベンダーフリー化 | FBやXML仕様により、ツールやメーカーをまたいで資産活用が可能 |
開発効率の向上 | 標準FBやガイドラインにより、再利用性が高まり開発期間を短縮 |
IT-OT連携の基盤構築 | OPC UAなどの仕様で、ITシステムとの統合が容易に |
教育と育成のしやすさ | 世界共通のルールに基づくため、グローバル人材の育成に有効 |
PLCopenには日本の団体もあります。
PLCopen Japanの活動内容について以下に記載します。
PLCopen Japanの活動内容
PLCopen Japan(PLCオープン・ジャパン)は、PLCopenの日本支部として活動する組織で、日本国内でのIEC 61131-3普及と教育支援を目的に設立されました。
主な役割
- 日本語での技術資料・仕様書の提供
- 国内セミナーや教育活動の実施
- 日本国内ベンダーとの連携と実装支援
- IEC仕様をベースとした設計ガイドラインの策定
参画企業(例)
- 三菱電機株式会社
- 株式会社オムロン
- 株式会社デンソーウェーブ
- IDEC株式会社 など
日本語リソースが手に入る
公式サイト(https://plcopen-japan.jp)では、IEC 61131-3やPLCopen仕様の日本語翻訳資料、設計ガイド、動作仕様などをダウンロードできます。
これにより、英語資料の壁を越えて導入しやすくなっているのが特長です。
🔗 PLCopen Japan公式サイト:
https://plcopen-japan.jp
まとめ
「PLCopen」は、IEC 61131-3の実用化を目的に設立された標準化団体であり、実務に即した仕様やツールを提供する重要な存在です。
- メーカー依存を排除し、制御プログラムの再利用性・互換性を実現
- IEC 61131-10やOPC UAなど、現代の制御・通信要件にも対応
- エンジニアの育成、現場の効率化、ITとの連携まで幅広く貢献
今後もPLCopenは、制御分野における国際共通言語としての役割を果たし続けることでしょう。