IT-OT連携に必要な知識とスキルセット 〜PLCエンジニアが目指す“次世代スキル”とは〜

はじめに

製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、現場で制御を担ってきたPLCエンジニアに求められるスキルは、大きく変化しています。

これまでの「制御ができればよい」時代から、「ITとOTをつなぐ“ハイブリッド人材”」が求められる時代へ。

この記事では、IT-OT連携に必要なスキルを分野別に整理し、PLCエンジニアがこれから学ぶべき方向性を示します。

ITとOTの仕組みの基本理解

IT(情報技術)とOT(運用技術)の違いや役割を理解することが、連携の第一歩です。

領域主な対象目的特徴
ITクラウド・PC・業務システム情報管理・可視化・分析柔軟性・多機能・進化が早い
OTPLC・センサ・装置制御現場制御・安全動作高信頼・リアルタイム性重視

両者の違いを知り、橋渡しの視点を持つことが連携成功の鍵です。

IT/OT融合技術の理解

PLCは、現場の制御だけでなく「上位システムと現場をつなぐ中継役」としての役割を担っています。

習得すべきスキル

  • PLCと他システム間の通信プロトコル理解(SLMP, OPC UA, MQTT等)
  • ネットワーク設定(IPアドレス, VLAN, VPN等)
  • データ形式変換・フォーマット処理(CSV, JSONなど)
  • センサや測定器から取得したデータの構造設計と前処理技術

これらの知識は、「“データの翻訳者”として現場とクラウドをつなぐ存在」になるために欠かせません。

ネットワークと通信の知識

PLCが他システムと連携するには、ネットワークの基礎理解が必須です。

具体的には

  • 産業用ネットワーク(Ethernet/IP, CC-Link IE, Modbus TCPなど)の構成と設計
  • PLC間通信、PC-PLC通信の設定とトラブル対応
  • VPNやファイアウォール、ポート番号の意味と基本設定

制御装置がネットワークに接続されることで、セキュリティと可用性の両立も重要テーマになります。

クラウド・ITツールとの連携スキル

クラウドサービスとの連携は、製造DXの中心的なテーマです。

具体的には

  • Azure IoT HubやAWSとのデータ送信・受信フローの構築
  • Node-REDなどローコードツールによる簡易可視化・制御
  • WebアプリケーションやAPIとの連携技術

クラウドやWebに「抵抗感がある」という声もありますが、1つでも成功体験があると一気に学習が加速します。

データ分析と可視化技術

PLCは「制御」だけでなく「データ収集装置」としての機能が高まっています。

そのデータを意味のある情報に変換するスキルが求められます。

習得すべき領域

  • 統計の基礎知識、異常検知ロジック
  • PythonやBIツールによるデータ処理・可視化
  • ダッシュボードの作成(Power BI, MotionBoardなど)
  • リアルタイム可視化とトレンド監視

これらは、現場改善・見える化・保全高度化の基盤になります。

プログラミングと構造化思考

従来のラダープログラムに加え、より抽象度の高い設計スキルが求められています。

求められるスキル

  • ST(構造化テキスト), FBD, SFCなどのIEC 61131-3準拠言語
  • Python, SQL, JavaScriptなどのデータ連携・分析系言語
  • 関数・サブルーチンの使い分け
  • モジュール設計や再利用性の高いプログラム構造

最新のPLCは、「クラウド・AI・エッジ機能を備えた“スマートコントローラ”」として進化しており、プログラム設計力もより高度化しています。

セキュリティと保守の知識

ITと接続されるPLCは、サイバー攻撃のリスクにもさらされるようになります。

学ぶべきポイント

  • OT向けセキュリティの基礎(IEC 62443, 多層防御構成)
  • アクセス制限、暗号通信、ログ取得などの実装
  • 定期バックアップとリストア手順の確立

セキュリティ事故は工場の“止まらないこと”が命題なだけに、予防・復旧スキルの習得が重要です。

コミュニケーションスキル:組織をつなぐ力

最後に見落とされがちなのが、コミュニケーションとチーム連携の力です。

  • IT部門と現場の橋渡し役としての翻訳力
  • トラブル時に冷静に対処するリーダーシップ
  • DX推進に向けた社内プレゼン・報告スキル

IT-OT連携では、「技術の言葉を人に伝える力」が非常に重要になります。

まとめ|PLCエンジニアが未来の工場をつなぐ

PLCエンジニアは今、「現場の制御とクラウドを結ぶ“コア人材”」として進化しようとしています。

そのためには、従来のラダーや配線の知識だけでなく、ネットワーク、データ、クラウド、セキュリティ、分析、そして対話力までを含めた幅広いスキルが必要です。

まずは、自分に足りない部分を1つずつ補い、実際に使って“つなぐ経験”を積み重ねていきましょう。

👉 次回は「PLCを活用したIT-OT連携の構成と通信方法を図解で解説」について解説します。

PLCを活用したIT-OT連携の構成と通信方法を図解で解説 〜現場のPLCを“つなぐ力”に変える仕組みとは〜PLCを活用したIT-OT連携の構成と通信方法を図解で解説 〜現場のPLCを“つなぐ力”に変える仕組みとは〜
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しーけん師匠

「しーけん師匠」こと当サイト運営者は、制御エンジニア歴35年以上。三菱電機製シーケンサや産業ネットワークを中心に、現場からIT/OTの連携まで幅広く対応。若手に制御エンジニアの魅力を伝え、業界の活性化と人材不足の解消を目指して情報を発信中。

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