もくじ
はじめに

製造業におけるDX推進が叫ばれる中、実際の工場現場では「思ったように進まない」という課題が多くのPLCエンジニアを悩ませています。
本記事では、デジタル化が進まない背景にある技術的・組織的な壁を多角的に解説し、その中でPLCエンジニアが果たすべき役割と求められるスキルについて整理します。
システム統合と連携の複雑性
紙ベースとITが混在する現場のリアル
現場には「生産管理システムは導入されているが、指示や報告は紙で運用」というような中途半端なIT化が多く存在しています。
また、現場やフロアごとに異なるルールや設備が存在し、「1つのシステムにまとめられない」という問題も頻出です。
これにより、PLCエンジニアは単純な制御プログラム作成だけでなく、既存システムと新技術をつなぐ「橋渡し」の役割を担う必要が出てきています。
連動しないシステム、増えるプロトコル
DX推進により様々なシステムが導入されても、「連動しない」「統合できない」という状況が多発しています。
異なるPLCメーカー・通信方式・データフォーマットの混在により、高度なネットワーク構成やデータ連携の知識がPLCエンジニアに求められます。
たとえば、以下の知識が求められます。
- PLC間通信(異ベンダ間)
- SCADAやクラウドのデータ同期
- JSON/XML/CSVフォーマットの変換
- REST APIなどの通信仕様の理解
人材不足とスキルギャップの深刻化
IT人材は採れない、現場で育てるしかない
経済産業省の試算によると、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると予測されています。
この影響は製造業にも及び、PLCエンジニアがITやクラウド、セキュリティの分野までカバーすることが求められています。
その結果
- データベース・BI・クラウドの知識も必要
- エンジニア1人が“何役も兼任”するケースが増加
- 「ベンダーに丸投げすると高くつくので、用語だけでも理解したい」という現場の声が増加
→ PLCエンジニアの業務は、専門性を超えて多様化しています。
組織的な制約と予算の壁
「やれ」と言われるが、予算も計画もない
DXを進めるよう上司から指示される一方で、実際には
- 「何から始めていいかわからない」
- 「予算がないので教育や試作ができない」
- 「導入効果の試算やROIの算出が難しい」
といった声が多く聞かれます。
結果的に、PLCエンジニアが計画・戦略の立案も担うことになり、技術者以上の役割を背負うことになります。
現場の課題のまとめ
課題カテゴリ | 内容の要点 |
技術的課題 | 異なるシステム同士の連携が困難。プロトコルの違いや旧設備との混在 |
スキルの課題 | ITやクラウド、セキュリティまで求められるが、教育・習得機会が不足 |
組織的・予算的課題 | 「指示だけ」で仕組みがなく、現場任せ。人も金も時間も足りない |
情報格差 | ベンダーとのやりとりに必要なIT知識が不足し、無駄なコストが発生しがち |
まとめ|“できない理由”を“進める理由”に変えるには
製造現場でのデジタル化が進まないのは、「やる気」や「技術力」がないからではありません。
その背景には、技術の複雑さ、人的リソースの不足、組織的な制限といった現実的な壁があるのです。
まずはこうした状況を整理し、小さな成功体験を積み上げることが第一歩です。
PLCエンジニアは、もはや制御だけでなく、ITとの接点を持つ“現場DXの推進役”として活躍が期待されています。
👉 次回は「IT-OT連携に必要な知識とスキルセット」について、具体的なスキル例と学び方を紹介します。
